2015.07.15 教科書

GHQによる検閲の原点:原爆報道

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世論形成に用いられる両面作戦

日本・中国・韓国の国旗①(遠景)

権力が自分にとって望ましい世論形成を図ろうとする時、「両面作戦」をとるのが一般的です。

「両面作戦」とは何か?
それは、自分にとって都合がいい事実を強調する「宣伝」と、自分にとって都合が悪い事実を隠蔽する「コントロール」です。

「コントロール」は、極端な例で言えば、中国や北朝鮮などの一党独裁国家行っている制度的な「検閲」がありますが、民主主義国家では、制度的な「検閲」は禁止されており、別の形での情報のコントロールが行われます。

日本国憲法第21条でも、
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
と、明確に検閲を禁じています。

しかし、1945年8月15日の終戦後、連合国軍総司令部GHQは、占領政策を遂行するため、自分たちにとって都合が悪い事実を隠蔽しなければなりませんでした。
その典型が原爆です。

原爆は、どのように報道されたか

広島

8月6日に広島、8月9日に長崎に原爆が投下され、多くの方々が犠牲になりましたが、その残虐性を日本国民が知ることになれば、ついこの間まで敵国だった米国への憎悪は増し、占領政策の遂行に有形無形の障害になることが容易に想像されました。

朝日新聞取材班が戦後50年を機に、「戦後50年 メディアの検証」(三一書房)という本を出しました。
その中で戦後のごく短い期間、原爆についての新聞記事が書かれたことを記しています。

1945年8月22日の朝日新聞西部本社版に、渡辺政明記者による長崎の被爆状況を綴るルポが掲載されました。

8月30日の朝日新聞には、広島で被爆した作家の大田洋子による体験記「海底のような光」が掲載されました。

イギリスのW・G・バーチェット記者も、9月3日に同盟通信の案内で広島の病院などを取材し、残虐な仕打ちを恨む被爆者の視線を感じながら、放射能障害で次々に死者が出ている模様などを打電しました。

こういった原爆報道は、その後、徹底的に「抹殺」されます。

朝日新聞は、鳩山一郎衆議院議員による「原子爆弾の使用は戦争犯罪」という見解を掲載しましたが、それによってGHQから、9月18日に朝日新聞東京本社に対し、2日間の発行停止を命じられます。
「原爆に関する報道はまかりならん」という強烈な圧力でした。

翌19日に、GHQは10か条のプレスコートを発令します。
その10か条とは
1 報道は絶対に真実に即すること
2 直接又は間接に公安を害するようなものを掲載してはならない
3 連合国に関し虚偽的又は破壊的批評を加えてはならない
4 連合国進駐軍に関し破壊的に批評したり、又は軍に対し不信又は憤激を招くような
記事は一切掲載してはならない
5 連合軍軍隊の動向に関し、公式に発表解禁となるまでその事項を掲載し又は論議し
てはならない
6 報道記事は事実に即し、筆者の意見は一切加えてはならない
7 報道記事は宣伝目的の色を着けてはならない
8 宣伝の強化拡大のために報道記事中の些細な事項を強調してはならない
9 報道記事は関係事項や細目を省略する事で内容を歪曲してはならない
10 新聞の編輯に当り、何らかの宣伝方針を確立し若しくは発展させる為の目的で、記
事を不当に軽く扱ってはならない

というものでした。
これをもとに、10月から新聞の事前検閲が始められます。

バーチェット記者の原爆報道も、その後に広島入りした記者たちが、原爆の破壊力を賛美する記事を書かされたり、科学者たちが広島で放射能で苦しんでいる者はいないという反論を発表し、原爆の悲惨さが打ち消されることになりました。

原爆報道抹殺から始まったGHQの苛烈な検閲

富士山

こういったGHQの原爆報道抹殺は、情報統制によって世界が原爆被害を知らされないという事態となり、米ソ両大国による原爆開発競争に歯止めが効かなくなる結果を招くわけですが、同時に、GHQの狙い通り、原爆の悲惨な被害を引き起こした米国への敵愾心を抑制する結果をもたらしたことは想像に難くありません。

GHQはこのような「宣伝と情報のコントロールによる世論形成」を、原爆報道の抹殺を手始めに次々に行っていきます。

GHQの目的は、まず、日本が軍事力を持った国家として二度と立ち上がれないようにすることでした。
そのためには軍隊の解体だけでなく、日本人の「国を思う」気持ち自体を抹殺することがもっとも手っ取り早く、罪悪感や敗戦意識を植え付けて「国家」というアイデンティティを、徹底的に突き崩そうとしました。

「民主主義」の宣伝もその一環といえます。
国家より自己を強調することで、国家のプレゼンスが低下します。

同時に、原爆報道の抹殺のように、連合国に対する敵対心が煽られることのないようにしなければなりませんでした。
そのためのプログラムが、「WGIP」だったといえます。

次回は、その詳細を見ていきましょう。

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