2015.07.27 鉄道

『利用者を転落から守るホームドア!』~ホームドアについてもっと知りたいあなたへ【まとめ】

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鉄道の「人身事故」はいまだ増え続けている! ホームドアを設置し安全性を高めよう

都内の鉄道では二日に一度ぐらいのペースで「人身事故」の影響による電車の遅れに直面します。

実はつい最近まで、人身事故の原因はすべて飛び込み自殺だと勘違いしていました。

この記事をご覧の方の中にもそういう方は多いと思います。

しかし、一般に人身事故といわれているもののうち、原因が明らかに自殺である場合は列車・車両の運転を行ったことが原因で起きた事故とは解されないことから、鉄道人身障害事故とならないのです。

したがって、人身事故のケースとしては、ホームからの転落や列車との接触、酒に酔った旅客や線路に立ち入った人と列車との接触、また車両のドアに挟まれたり引きずられたり、車両が破損したりなどの「転落事故」や「接触事故」のケースがほとんどであるという状況になっています。

転落・接触事故が増えている背景には、携帯、スマホ、ゲーム等のモバイル機器の普及もその一因にあるようです。

携帯電話で話している程度ならいいですが、歩きながらスマホでTwitterを夢中で見ていたり、ゲームをやっている姿は、はたから見てもかなり危うい行為だと思います。

 

駅のホームは事故多発地帯!?ホームドアで転落防止を

そしてさらに、ホームからの転落・接触という問題が深刻なのは視覚障碍者の方々です。「欄干のない橋」と例えられるほど、駅のプラットホーム上は視覚障碍者にとってとても危険な場所となっているのです。

実際、とあるアンケート調査では視覚障碍者の4割がホームから「転落」した経験があると答えています。

中には複数回経験しているという人もいるのです。

こういった状況の中、人身事故を防ぐための「切り札」が、最近鉄道各駅に設置されつつある「ホームドア」です。

ホームドアとは、ホームからの転落事故や列車との接触事故防止などへの安全対策として、プラットホームを壁で囲いドアを取りつけて、列車の乗降に合わせて開閉させるものを一般的にそう呼んでいます。

ホームドアの歴史は意外と古くて、日本で最初にホームドアが設置されたのは東海道新幹線の熱海駅(静岡県熱海市)で、1974(昭和49)年1月のことです。

これは猛スピードで通過する新幹線との接触を防ぐためのもので、通常はドアを締め切りにしておいて、停車する列車が到着する度に駅員が手動で開閉していました。

その後、1981年開業の新交通システム「神戸ポートライナー」でフルスクリーンタイプのホームドアが初めて採用されました。

無人運転をしている新交通システムでは、利用者の安全のためにすべての路線で開業時からフルスクリーンタイプのホームドアを導入しています。

また、本格的な鉄道で採用されたのは1991年に部分的に開業した営団地下鉄・南北線が初めてです。

2000年代に入ってからは、南北線と相互乗入れする都営地下鉄・三田線の全駅で設置されるなど、新しく開業した路線から普及が進みました。

 

2つのタイプのホームドア

ホームドアには大きく分けて2つのタイプが存在します。

東京メトロ・南北線や「ゆりかもめ」等のように天井近くまでを覆った「フルスクリーンタイプ」と、山手線など屋外のホームによく見られる腰の高さぐらいのタイプの「可動式ホーム柵」の2種類です。

それらは、ホームの構造や列車の車両編成の違いに応じて使い分けられています。

 

絶対的な安全性を誇る「フルスクリーンタイプ」

「フルスクリーンタイプ」は天井までを完全にホームを覆うことができるホームドアです。ホームを密閉することにより、線路への突き落とし事件や飛び込み自殺に対する抑止効果は大きいといわれています。

天井近くまであるドアによりプラットホームを完全に仕切る形なので、ガラスを多用して、列車の通過を気付かせたり、圧迫感を感じさせないような工夫をしています。

列車とホームを完全に仕切ることで確実に安全・安心の確保ができ、さらに、ホームを密閉することで、地下鉄の駅では列車の進入時の風を防いだり冷暖房の空調効率を高めることにも役立っています。

南北線のホームドア 「フルスクリーンタイプ」のホームドアの例(東京メトロ南北線)

ただし、導入するには高額の費用がかかり、すでにある路線ではホーム上部に屋根や天井などの構造物が必ずあるとは限らないこと、それに加え、比較的大きな駅でもホームの先頭・最後尾あたりには屋根すらないということも珍しくないので、既存ホームに後から設置する場合は、屋根の設置やホームの強度の問題から困難を要します。

そのため、各鉄道会社はこのタイプの導入には極めて消極的な姿勢です。

したがって、フルスクリーンタイプは新規の路線、特に新交通システムで導入されるケースにほぼ限られているといっていいでしょう。

1990年代に新規に開業した地下鉄である営団地下鉄南北線と京都市営地下鉄東西線はこのタイプが採用されましたが、2000年代以降に新規に開業した地下鉄では採用例が無いというのが現状です。

 

簡易式でリーズナブルだが、効果は抜群「可動式ホーム柵」

最近、あちこちの駅のホームで見かけるようになってきたのが「可動式ホーム柵」タイプのホームドアです。一般的に、ホームドアという言葉を聞いたらこちらのタイプを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

丸ノ内線 ホームドア 「可動式ホーム柵」のホームドアの例(東京メトロ丸ノ内線)

車両ドア部分に設けられた可動式のホーム柵が、列車の車両のドアと連動して開閉することにより、ホーム上の乗客と進入する列車とを安全に分けています。

高さはだいたい人の腰の高さぐらいです。フルスクリーンタイプよりも安く導入できることから、建設費を安く上げたい新規路線や、元々ホームドアを設置していなかった既存路線への導入の際に多く見られます。

鉄道会社としては、副次的な効果としてワンマン運転化やホームでの駅員の削減をすることもできるというメリットがあります。

このタイプのホームドアはホームからの転落防止・車両との接触防止には一定の効果がありますが、上部があいているために、意図的な乗り越えや身を乗り出したり、線路上に荷物を落としたりすることまでは防止できないのが難点です。

しかし、効果が完全ではないとはいえ、ホーム柵を越えるのにはそれなりの身体能力や道具が必要なので、衝動的な自殺や酔った客の線路への転落防止などには高い効果が見込まれます。

 

「歩きスマホ」が人身事故の大きな原因に!?

最近、町を歩けばスマホ、信号待ちでも歩きながらでも自転車に乗ってまでスマホと、ながらスマホをする人が目立っています。

そんななか、とくに差し迫った危険があるといわれるのが駅のホーム上での「歩きスマホ」です。

今では老若男女を問わず、ホームを歩きながらメールやゲームをしている姿を見かけます。

混雑するホーム上では人との衝突だけでなく、線路に転落する事故も起きています。

そういったことが鉄道の人身事故がいまだ増え続けている要因の一つとなっています。

もちろん、ホームからの飛び込み自殺というのも未だ後を絶ちません。

ひとたび人身事故が発生すると列車の運行が一時的にストップするだけではなく、数時間にわたってダイヤが乱れ、多くの人の移動に影響が出てしまい社会的にも大きなロスとなります。

 

ホームでの人身事故は急増中!いざという時のためにホームドアを

大きなニュースとなった2001年の新大久保駅での転落事故を契機に、社会的にも駅のホームからの転落事故防止を求める機運が高まり、様々な対策がとられてきました。

そういった中で2014年9月末現在、JRをはじめ地下鉄や私鉄各社など全国で593駅(約300駅が首都圏)へのホームドア導入・設置がされていますが、国内全体から見れば6%程度でまだまだ氷山の一角に等しいのが現状です。

未だホームでの安全対策が万全ではない駅が大半を占めています。

統計では、ホームからの転落事故やホーム上での接触事故が記録として残されるのは、列車が止まり死傷者が出た場合に限られるので、事故が起こっても何事もなく済んでいる場合は記録には残されていません。

したがって、転落・接触事故の件数は、そういったものを含めればもっと多いはずです。

 

人身事故の半数以上がホームでの事故

国土交通省は一定基準以上の人身事故や輸送障害が発生した場合、鉄道事業者に報告を義務づけており、そのデータを「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報」として公表しています。

人身事故の発生件数 人身事故の発生件数(平成25年度)

 また、有志のジャーナリストが立ち上げた「鉄道人身事故マップ」のホームページにも、詳しくまとめられています。

それらによると、平成25年度に起こった鉄道事故は全790件で、そのうち約半数弱の422件が人身事故となっています。

その内訳をみると、故意による自殺など(線路内立ち入り)が約43%を占め、それ以外の全体の約57%がホームからの転落・列車との接触による不慮の事故となっています。

 

視覚障碍者の6割が駅のホーム上で危険を感じている!

国土交通省の別の調査では、一般の駅利用者のうち、4%の人がホームから転落、またはホーム上で列車と接触し、17%の人がホームからの転落などにつながる危険な思いをした経験があると答えています。

その一方で、日本盲人会連合の調査によると、ホームから「転落した」経験がある視覚障碍者の割合は38.5%、つまり3分の1を超えています

ホームからの転落などの経験 ホームからの転落などの経験(2011年)

 この割合は、上記の一般の利用者のホームからの転落・接触を経験した割合よりはるかに高い数字です。

また、「転落しそうになったことがある」と答えた視覚障碍者の割合はさらに高く、約60%にも及んでいます。

視覚障碍者の人が一般の人よりホームからの転落による人身事故に遭う確率が高いということが、データにも示されているのです。

一般的に日本の鉄道の安全性は極めて高いレベルにあるといえますが、ホームという場所においてはまだ安全性向上の余地があり、なお一層の取り組みが求められています。

 

利用者の安全を守っているホームドア

統計によれば、ホームドアの設置によって人身事故(転落事故)は劇的に減少しており、ホームドアの安全性への効果ははっきりしています。

少し古いデータですが、「鉄道人身事故マップ」のホームページのデータによると、2002〜2009年度の8年間に起こった鉄道の人身事故は全9,129件で、そのうち約半数弱の3,997件が駅構内において発生しています。

その内訳をみると、自殺が約55%を占め、故意と考えられる自殺と線路内への立入りを除いた、全体の約3分の1がホームからの転落・列車との接触による不慮の事故です。

しかも、この転落や接触の約半数が酔った客によるものとなっています。

一方、同期間にホームドアが設置されている駅において発生した人身事故をみると、全体と同じ発生率ならば8年間で約190件起こるはずのところ、12件しか発生していません。

ホームドアによって転落・接触という誤って引き起こされる人身事故はかなり防止できているといえるでしょう。

このようにホームドアの設置は、ホームの安全性向上に対して大変に効果が高いことが実証されているのです。

 

後手に回っていた「転落事故」への対策

ずっと以前は、ホーム上に引かれていた「白線」だけが安全対策の主体でした。

それは、利用者自らの注意力や自己防衛に頼るものです。しかし、白線だけでは視覚障碍者の人が自らの安全を得るための情報としてはきわめて不十分なものです。

そこで、ホームに採用・設置されたのが黄色い点字ブロックです。この点字ブロックの鉄道駅への導入・設置は、今から40年以上も前の当時の国鉄山手線(現JR東日本)高田馬場駅のホームで起きた転落・死亡事故がその発端にありました。

当時、この事故に対して、国鉄は視覚障碍者のホームからの転落を防止するための措置をしていなかったため、事故防止の安全整備をなすべき義務を欠いたとして批難され、裁判にまで発展しました。

その後、国鉄は視覚障碍者の安全対策に努力する意向を示し、これを契機に全国の駅のホームに点字ブロックの設置が急速に進められたのです。

白線と点字ブロック

白線と点字ブロック

現在では、「交通バリアフリー法」の施行(平成12年)もあって日本のほとんどの駅に点字ブロックは普及・設置されています。

しかしながら、首都圏への人口の集中やスマホの普及による「歩きスマホ」をする人が増えたことによって、ホーム上の危険性は現在も高まりつつあります。

ホームからの転落、列車との接触による人身事故は後を絶たず、しかも増えているという状況です。

 

今そこにある危険 ~駅のプラットホーム~

そもそも、駅のプラットホームは雨水の排水をよくするため、線路側に向かって少しだけ傾斜しています。

ホームの傾斜については、鉄道技術基準というものに基づいてホームから線路側のほうに1%のゆるい勾配が設けてあります。

傾いているホーム

傾いているホーム

転落・接触による人身事故の多くは酔った利用客によるものですが、一般の利用者でさえ歩きにくい場所ですので、視覚障碍者の人には独特の危険が数多くあります。

視覚障碍者にとって、線路への転落がどれほど身近かということを裏付けるいくつかの統計がネット上にあります。

弱視者も含めると半数ぐらいの人がプラットホームからの転落を経験し、全盲者だけでいうと6割~7割の人が転落を経験しているともいわれています。

ホームからの転落などの経験

ホームからの転落などの経験(2011年)

また、国土交通省の別の調査では一般の駅利用者のうち、4%はホームから転落、またはホーム上で列車と接触し、17%はホームからの転落などにつながる危険な思いをした経験がある、と答えています。

その一方で、とある調査によるとホームから転落したことがある視覚障碍者の割合は38.5%、つまり3分の1を超えているとのことです。

この割合は、一般利用者がホームからの転落・接触を経験した割合よりはるかに高い割合です。また、「転落しそうになったことがある」と答えた視覚障碍者の割合はさらに高く、約60%にも及んでいます。

一般の人より視覚障碍者の人ががホームで事故に遭う確率が高いことはデータにも示されているのです。

 

真のバリアフリーを目指して

視覚障碍者のバリアフリーを実現するための施策としては次のようなものがあります。

  • 段差の解消
  • 情報の補助
  • 施設・設備の整備

鉄道においては、段差を解消するためエレベーターやスロープ、リフトの設置が行われています。

また、利用に必要な情報が得られるように、点字ブロック、音声ガイド、警告灯明滅といった方法で情報の補助が行われています。

そして、最も重要な設備としてホームドアがあげられます。

ホームドアを設置することでホームからの転落による人身事故を防ぐことができます。

視覚障碍者にとってホームドアはまさに命を守るための大切な設備であることはもちろんですが、一般の利用者にとっても雨の日や飲酒時の転落を防ぐなどメリットは非常に大きいのです。

障碍者のためのバリアフリー設備には、「あれば便利」というレベルから「生命の危険」といったレベルまであります。

ホームドア・点字案内

乗降車両をわかりやすく点字で案内

設備の導入には様々な課題がありますが、それらに優先順位を付けて進めていくことが現実的です。

だからこそ、「生命の危険」といえる、事故と隣り合わせのプラットホームでの人身事故防止策は、最も優先度の高い課題のひとつといえます。

乗降位置を点字ブロックで案内

乗降位置まで黄色い点字ブロックで誘導している

ホームドアを設置することによって様々なメリットが生じます。

まず、なによりもホーム上の転落事故や接触事故がほぼゼロになることが統計上はっきりしています。

ホーム上での転落・接触事故のほとんどが、ホームドアがあれば防げたと言い切っても差し支えないものばかりだからです。

ホームドアを後付けした山手線・都営地下鉄三田線では、ホームドアを設置後の事故発生件数は数年以上にわたって0件のままでした。

 

もうホームドアを設置するしかない!だが・・・

事故が増え続ける現状を打開するため、新たに抜本的な安全対策として大都市圏の路線を中心に導入・設置が加速されつつあるのがホームドアです。

国土交通省も、①視覚障碍者団や視覚障碍者の整備要望が多い、②一日の利用者が10万人以上、に該当する約240駅を目安に、重点的にホームドアの設置を進めています。

国土交通省(鉄道輸送の安全にかかわる情報)によると、ホームでの人身事故は2013(平成25年)年度には189件発生しており、件数・死傷者ともに10年前からほぼ2倍に増えているといます。

一方、全国でホームドア設置駅も2013(平成25)年9月末で574駅(全国)と増えたものの、全国比率では7%にも満たない状況となってます。

その内、首都圏が約300駅を占めていますが、それでも首都圏全体の駅の設置率は18%ほどに過ぎません。

人身事故の発生件数の推移

利用者が安全にホームを利用するために欠かせないホームドアですが、その設置の進捗は全体から見れば遅々として進んでいないのが実状です。

設置が進まない理由としては、ホームドア導入に関する様々な技術的な問題がその理由の一つとなっています。

加えて、もっとも大きい理由としてはコストの問題で、これにはホームの構造にも関わるために駅によって異なりますが、一駅当たり数億円から十数億円ともいわれています。

最近、ようやく補助金の適用が可能になったものの総事業費の一部に過ぎず、各鉄道会社の負担がゼロになるわけではありません。

また、そもそも財政の厳しい地方自治体では腰が重い状況なのです。

 

なかなか進まないホームドアの設置

既出の通り、ホームドアに関しては国土交通省が検討会を設け、その設置促進を検討しています。しかし、さまざまな問題が重くのしかかり、なかなか普及が進まない状況でした。

2011年8月にはその検討会の中間報告において、事故対策を優先するべき駅として「一日平均10万人以上の利用者がある駅」約240駅)という数字による指針が出されました。

具体的な数値目標が示されたのは初めてであり、全国的な普及に向けてこれは大きな前進です。

その方針にしたがって、都心のターミナル駅を中心として、鉄道各社はホームドアの整備促進を少しずつ進めてきているのは確かです。

 

さらなるホームドアの普及に向けて

ホームドアは利用者の安全確保や交通バリアフリーの推進に貢献し、また、人身事故(転落事故)が減ることによって定時運行や省力化にも役立ちます。

国土交通省としても上記の指針にしたがい、メーカーや鉄道会社に対し補助金などを提供して、次世代型ホームドアの開発・普及に努めようとしています。

現在、鉄道各社ですでに設置しているホームドアには、「フルスクリーンタイプ」と「可動式ホーム柵タイプ」の2種類が存在するのですが、既存の駅へホームドアを導入する際は、よりリーズナブルな可動式ホーム柵タイプが主流を占めています。

リーズナブルであるとはいっても、その導入には事業者に大きな負担を強いるため、進行具合は遅々として進まない状況です。

 

ホームドアの導入を阻んでいる3つの理由

現在、国土交通省でもホームドアの普及を促進させようと、様々な施策を行っています。

しかしながら、ホームドアが設置された駅の数は思ったようには増えていないという現実があります。

その理由としては、

(1)3ドア車や4ドア車など車両のドア位置が異なること
(2)車両を正確に停車させる必要があること
(3)ホーム自体の改造が必要であるなどホームドア設置への制約が厳しいこと

があります。

(1)について、鉄道では、一両の長さやドアの数・広さ・位置などが異なる多種多様な車両が運行されています。

乗り降りの位置が固定されている既存のホームドアでは、さまざまなドア位置への対応が不可能です。

現在、東京の各路線は他社の路線と相互直通運転するために様々なドア車が運用・運行されていて各駅に相互に乗り入れています。

それらはドアの位置が完全には合わないようになっており、今のままでホームドアを設置するならば、相互直通運転という利用者にとても便利なサービスを中断しないといけなくなってしまいます。

■ドア数の違い(京急羽田空港駅)

また(2)について、ホームドアを設置した場合には、列車をホームドアの前に正確に停止させる必要があります。

オーバーラン等をなくすため、運転士にとっては通常の約3倍の精度を要求されるともいわれていて、かなり列車の停止や制動への高い練度が要求されます。

■停止位置の修正(東京メトロ副都心線・オーバーラン)

(3)についても、ホームドアを設置するためには、それを支えるための構造物がホーム側に必要です。

新設駅のホームならば最初からホームドアの設置を考えて建設することができますが、既存の駅のホームでは当然そのような構造物の追加までは余裕をみていない場合がほとんどです。

このような場合は、設置スペース等を確保したり、土台を補強したりすることになりますが、ホームや駅舎の工事をするとなると列車運行に支障をきたし、利用者に不便がかかるので、鉄道会社としてもなるべく敬遠したい理由となっています。

■ホームドア設置工事の様子(小田急新宿線)

このように、それぞれの背後には、現在まで長い時間をかけて利便性を上げるための様々なサービスを発達させてきた、日本の鉄道サービスの本質に関わる問題が存在しているのです。

 

ホームドアの設置にはとてもお金がかかる

さらに重要な点として、ホームドアの導入における問題に共通することは、とてもお金がかかるということです。

はじめから車両が統一されていて、定位置停止装置もあり、比較的関係する工事が少なかった東京メトロ丸ノ内線でも、約100億円(28駅)かかったと言われています。

それに対して、11両編成中2両を入替え、定位置停止装置を新たに付け、土台や基礎の古いホームも多数残るJR山手線では、約500億円(29駅)もの費用がかかると見込まれています。

これらホームドアの整備費用は、日本の鉄道では公共交通といえども独立採算が原則なので、鉄道各社が経営努力によってなんとかその予算を捻出していかなければならないのです。

加えて言えば、ホームドアを設置したところで収入が増えるというわけではないのも確かではあります。

 

ホームドア設置費用は誰が負担?

各鉄道会社はホームドアの整備に伴ってワンマン運転を導入し人件費を削減することによって整備コストを回収するなど、様々な自主的な努力によってなんとかここまで整備を進めてきたというのが実情です。

最近、ようやく国や自治体からの補助金の適用が可能になったとはいえ、ホームドア設置に係わる総事業費の一部に過ぎません。

鉄道各社の負担がゼロになるわけではなく、また、財政の厳しい地方自治体では腰も重い状況です。

また、ホームドアを設置への税金の投入や運賃値上げによる利用者の負担増について、「負担してまで整備する必要は無い」と感じる人もいるでしょう。

これらは、どうやって人身事故を防ぐかという、「鉄道の安全」に対する社会全体としての取組みの問題でもあります。

今後、これまで以上のペースで多くの駅にホームドアの整備を進めていくためには、あらためて誰がそのコストを負担していくかという議論と社会的な合意形成を急ぐ必要があります。

 

課題克服に光が!ホームドア普及に前進の兆し

しかし、前向きな見通しもあります。

近年、比較的軽量で設置コストの安い新型のホームドアの開発が進み、その普及の可能性が広がっています。

また、ホームドアの導入によるワンマン運転やホームドアを広告媒体として活用するなど、設置のためのコストを軽減し、鉄道事業者の側に経済的な利益をもたらすことも可能性として考えられるようになりました。

ホームからの飛び込み自殺により莫大な損害をこうむってきたJR中央線や総武線にとっては、ホームドアを設置することによって文字通り元がとれるかもしれません。

 

ホームドアで広告収入!?

ホームドアを設置するメリットとしては他に、ワンマン化を実施しやすくなりコスト削減につながることや、「スクリーンドア」タイプのホームドアの場合は空調が効きやすく、冷暖房効率が良くなることなどが挙げられます。

さらに、ホームドアは有効な広告媒体としても注目されており、ホームドアによる広告収入は数億円規模の市場になる見込みであると、あるメディアは報じています。

このように、鉄道各社もホームドアを長期的な視野での広告源のひとつとしても認識しはじめているようです。

これは、利用客が列車を待っている間、通常線路側を前にして並んで立っており、ホームドアが視界に入ることが多いため注目度が高いと考えられているからです。

 

人身事故防止には、ホームドア設置が最も効果的だと国も認める

初めて視覚障碍者にとってホームドアが非常に有効な転落防止策であることが国会で語られたのは1991年のことです。

それから長い時間を要しましたが、ようやく国土交通省や鉄道事業者がホームドア導入に対して積極的な姿勢を見せ始めており、その更なる整備促進を図るため、車両扉位置の相違やコスト低減等の課題に対応可能な新しいタイプのホームドアの技術開発に対して支援を行っています。

今後も引き続き、ホームでの悲惨な人身事故を防止するために、ホームドアの設置が最も効果的であることを強く主張していくことが大切です。

安全対策は生命に関わる緊急課題です。

これまで行われてきたような、安価で設置可能な新型ホームドアの開発、ホームドアの設置のための資金援助、それらの促進に加えて、さらなる強力な方策を打ち立てることを国や行政に対して求めていきたいところです。

 

進化を続けるホームドア!「次世代型」が登場

従来のホームドアは異なるドア数・位置の車両が混在することを想定していないため、列車がホームに到着してもホームドアのせいで乗り降りできないということになってしまいます。

そして、扉の開閉時にその扉を格納する戸袋が必要となるため、ホーム上のどこでも乗り降り可能にすることができなかったのです。

そこで、扉の部分を昇降させたり移動させたりすることによって、列車のドアの数や位置が異なっていても容易に対応できるようにすることが、新型ホームドアの改良のキモとなる部分です。

ちなみに、JR山手線は以前6扉車が運行されていましたが、ホームドア導入に合わせて4扉車に統一されています。

山手線から6扉車がいなくなった理由は、実はこんなところにもあったのです。

 

「ドア」ではなく「ロープ」?!

ロープ式ホーム柵は乗客と列車を隔て、従来のような扉状のものとは違い、支柱の間にワイヤーロープ(複数本のステンレスワイヤー)が張られていて、乗客と列車を隔てています。

列車がホームに到着した時には、列車の動きに合­わせて上昇して(下記動画参照)、このロープが頭上まで上がることによって乗り降りが可能となります。

この方式の特長は、支柱の間隔を調整することによって様々な車両のドア数・位置に対応できる点です。逆に言うと、ここがホームドアの普及を阻む理由の一つとなっていました。

そこで、ドア部分を昇降式にすることによって、戸袋が不要となり、支柱部分以外の全面を開放することができ、列車がホームに着いてもホームドアがあるために乗降できないということはなくなります。

■東急田園都市線つきみ野駅:昇降ロープ式ホーム柵
 

「バー」タイプで視認性を向上

このホーム柵は、支柱の間にバーが張られていて、列車が到着するとこのバーの間隔が狭まり、それと同時に支柱が頭上まで伸びて乗り降りが可能となります。

このバー式はホーム柵をロープではなく、太く頑丈なカーボン製のバーにすることによりホームにいる乗客の視認性も向上させています(下記動画参照)。

バーの間隔を狭める点や支柱の構造が独自のものなど、いろいろなタイプが検証されています。

3扉車と4扉車の両方に対応できるホーム柵として実験・改良を重ねており、いくつかの駅でこのホーム柵を導入することが発表されました。

■相鉄いずみ野線弥生台駅:昇降バー式ホーム柵
 

従来型の柵型ホームドアにも画期的な改良が

乗降位置可変式ホーム柵の最大の特徴は、扉の開口部だけでなく戸袋部分も移動可能にすることによって、あら­ゆるドア数・車体長の列車に対応することができるところです(下記動画参照)。

ドア数の違いで扉の開口部を変えるだけでなく、到着時と発車時­で柵の位置を変更することによって、利用客の駆け込み乗車防止にも対応することができます。

戸袋部分もろとも移動しているので、上記ロープタイプやバータイプの弱点といわれる、昇降時の接触やぶら下がり、手荷物の落下なども防止することができるのが強みです。

■西武新宿線新所沢駅:「どこでも柵(入り口移動式)」ホーム柵
 

ロープ式やバー式のホーム柵は、従来のホームドアに比べて格段に軽量化されているのも特長の一つとなっています。

そのため、設置にあたってはホームの土台を補強する必要も少なく、工事も短期間で終わり利用者に不便な思いをさせることがありません。

一般的に後からホームを補強するのは大変な工事となるため、軽量なホーム柵の開発は今後の普及の後押しとなることは間違いないと思われます。

これら次世代型ホームドアの開発が進むことで、これまでその導入を阻む障害があって設置が難しかった路線や駅へのホームドア導入が進み、同時に利用者の安全がより高められるという期待も膨らみます。

 

安全だけじゃない!? ホームドア設置がもたらすメリット

このように、ホームドアは利用者の安全を図り人身事故を防止することがその第一の目的ですが、実は他にもメリットがあります。

  • ホームを密閉することによる冷暖房効率の向上
  • 事故が少なくなるので正常なダイヤを保ちやすい
  • 運転士の安心感もかなり上がり、ホーム進入時の精神的なストレスから解放される

などなど…、実は、私たちが普段あまり気にしないようなところでも、ホームドアのメリットを受けているのです。

 

明日は我が身 ホームドア設置を加速させよう!

近年、地方においても公営地下鉄を中心に普及の兆しが見えてきています。

しかし、全国のすべての駅を考えると、ホームドアが普及したと実感するにはまだまだ時間がかかるのではないでしょうか。

ホームドアの設置された駅・路線は徐々に増えつつありますが、設置駅の数は2012年9月末で539駅と、まだ全体の5%余りに過ぎないとも言うことができます。

ホームドアの設置状況 ホームドアの設置状況(平成26年9月末現在)
国土交通省調べ

 

全ての駅にホームドア設置を!

人身事故を防止するためには、ホームドアを導入することが非常に有効であることはハッキリしています。

近年になってようやく国土交通省や鉄道各社もホームドアの導入に対して積極的な姿勢を見せ始めてはいます。

今後とも、様々な角度からホームドア設置の要望をすることが必要だと思われます。

たとえば、複数の路線を持つ鉄道会社に訴えるとするなら、事故の多発している路線、あるいは、設置しやすい路線などを洗い出して、対象を絞って交渉するなどといった働きかけが効果的だと思われます。

現在、首都圏では地下鉄のほぼ半数の路線にホームドアが導入され、私鉄路線やJR山手線にも設置が進んでいますが、まだ首都圏全体の駅の半数にも満たない状況です。

さらに、2020年には東京でオリンピックが開催され、数多くの国内外の旅行客が見込まれます。鉄道利用客の増加によるホーム上の混雑・混乱は免れません。

国土交通省は、「10万人以上の駅においてホームドアの整備を優先して速やかに実施することが望ましい」との指針を示しましたが、オリンピック開催で今以上の混雑が避けられないことを思えば、できるだけ多くの駅へ設置・導入がなされることを、何とか加速させたいものです。

ホーム上での「万が一の事故」から命を守ってくれるホームドア。

さらに安全に安心して利用できる鉄道となるために、より一層の導入促進を共に求めていきたいものです。

 

※希望日本研究所 第8研究室

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