2016.06.06 主権者教育

世界に類のないドイツ版シティズンシップ教育

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ドイツ版「シティズンシップ教育」はドイツ民主主義の中に組み込まれている!

「シティズンシップ教育」とは学校の内外で行われる市民の政治参加能力と政治判断能力を育てる教育です。

今、世界中で「シティズンシップ教育」の必要性が高まり注目されています。

(参考記事:シティズンシップ教育がつくる新しい社会、イギリス

1990年代より、「シティズンシップ教育」は主に欧米社会で注目され始めました。

1998年に通称「クリック・リポート」(「シティズンシップの 教育と学校における民主主義の教授」)はロンドン大学教授バーナード・クリックを議長とする「シティズンシップ詰問委員会」より発表され、現代における「シティズンシップ教育」の基盤となりました。

(参考記事:「シティズンシップ教育」と「クリック・リポート」、結果として何が身につけられるか?!

ドイツはナチズムの悲惨で恐ろしい教訓から、市民が政治を把握していないと民主主義が空洞化するということを学び、政治参加力や判断力、教育の重要性を身にしみて感じました。

それ故に市民が積極的に政治に参加し続けることはドイツ民主主義の要になっていると考えられています。

そこで、第二次世界大戦後1952年に「連邦政治教育センター」がドイツに設立され民主主義が進められました。

「連邦政治教育センター」は他のヨーロッパ諸国には見られないドイツ独特の機関で、国会(連邦議会議員が構成した理事会)の監督下のもと、民間団体や企業と協力し政治情報の教材や出版、セミナー開催、児童生徒による政治教育コンクールなどを実施しています。

今回はドイツで行なわれている「シティズンシップ教育」について説明します。

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ドイツの子ども模擬選挙「ジュニア選挙」は民間の大学生団体が主催

「ジュニア選挙」とは、1998年、ベルリンの大学生を中心に結成された文化団体「クムルス」がアメリカで行われた模擬選挙「Kids Voting*」を参考に開発しました。

*アメリカの模擬選挙「Kids Voting」では、2004年の米国大統領選において模擬選挙を実施し約150万人の子どもたちが11万カ所の模擬投票所で投票しました。アメリカのシティズンシップ教育では小学校より情報を確認することなく投票することによって陥る結果を「投票の罠」として体験を通じ学ばせています。

(参考記事:アメリカ版「シティズンシップ教育」は教育目標の中心、子供の頃から訓練で政治参加力を養う!

「クルムス」は政治的な中立を保ち、政治家や政府任せではない民主主義への責任の意識を市民に促すことを活動目標としており、いくつものプロジェクトを開発しました。

その一つが「ジュニア選挙」で「選挙についての実践的な学習」のためのプロジェクトです。

1970年より既に18歳選挙権が認められていたドイツでは、子どもの頃から政治参加・投票行動への認識が求められていました。

この「ジュニア選挙」は選挙行動の大切さや関心を高めることを抽象的に教えるのではなく、「クリムス」が作成した「実際行われている選挙の争点」や「政策」などを説明した教材を各学校の授業で教え、投票行動や政治参加に対する理解を促しています。

「クリムス」の活動に政府も経済支援し、教材の内容は「選挙をリアルに学ぶ」という基本方針から選挙ごとに毎回作り直されています。

模擬選挙に至る授業で学ぶ内容こそが「ジュニア選挙」の中核であり、実際の選挙戦をより深く理解した上で「ジュニア選挙」の投票(電子投票)を実施し、現実社会における政治のあり方について真剣に考えることを生徒に求めます。

オンラインで送られた投票データはジュニア選挙事務局で集計され、本物の選挙の締め切り後、開票結果がインターネット上で公表されます。

日本の教育界とは違い、ドイツの教育界ではシティズンシップ教育は既に政府や民間と連携をとり、しっかりと社会に定着しているのです。

ナチスの教訓から「メディアリテラシーの教育」を「シティズンシップ教育」と共に実施!

徹底した政治宣伝を行ったナチスに国民が先導された教訓により、戦後ドイツではメディアリテラシーの教育も政治教育の一環として行っています。

ドイツのある保守系全国紙は米国カリフォルニア州知事選挙(2003年)で、ハリウッド映画俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーが州知事に選出された時、「ポリティーク(政治)」と「エンターテインメント」を組み合わせた言葉「ポリティンメント」を作り、現実の政治と映画の世界との区別がつかないようだと批判しました。

ドイツではアメリカや日本と違い、政治経験のない有名人を政党が推薦し当選させるという例はありません。

しかしながら、ドイツにおいても選挙キャンペーンではテレビを使い華々しく討論会など行われます。

一般的にテレビなどのマスメディアが民主主義に貢献するのは、有権者がメディアリテラシーを理解しマスメディアが提供する情報を鵜呑みにするのではなく読み解く習慣と能力が不可欠です。

ドイツのナチズムの歴史においても、市民がプロパガンダを批判したり正しく理解する努力を怠ると民主主義が全体主義になりかねないという教訓がメディアリテラシー教育の必要性を裏付けています。

それ故にドイツでは市民へのメディアリテラシー教育が有権者になる前の子どもの頃より必要とされ実行されています。

今後ますますネットを含めたメディア向け政治キャンペーンが定着していく中、日本を含め世界中でマスメディアを鵜呑みにせず、情報を自分で判断し行動する能力の開発のための教育が不可欠となるでしょう。

ドイツの「ジュニア選挙」では生徒達が自ら政治トークショーを演出し出演し、実際のテレビ番組と同じように視聴率を考えさせながら製作させています。

生徒は視聴率を上げるために面白い番組をつくらなければなりませんが、「政治であってもショーはあくまでショー」という理解を身をもって体験します。

(参考元:「ドイツの政治教育〜メディア化社会における政治・選挙教育の役割〜」 名古屋大学助教授・近藤孝宏著)

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ドイツ版シティズンシップ教育

ドイツの学校では「政治教育」の教科が設けられ、教師の中立性を保つ為、「ボイテルスバッハ・コンセンサス」と呼ばれる政治教育の原則が確立され今日に至るまでドイツの政治教育を支えてきました。

  • 生徒を圧倒することの禁止、教師は自分の考えを生徒に押しつけてはならない
  • 学問的・政治的に論争がある事柄は、論争があるものとして伝えなければならない
  • 政治教育は生徒一人ひとりが自分の関心や利害に基づいて、政治に影響を与えることができるような能力を身につけさせる

(出典元:社会に参加し、自ら考え、自ら判断する主権者を目指して〜新たなステージ「主権者教育」へ〜常時啓発事業のあり方等研究会  平成23年12月)

つまりドイツにおける政治的中立性とは、対立する立場をフェアに紹介することであり、それぞれの立場について正確な情報を伝えることが重要とされています。

もっと言えば、ドイツの政治教育では自分とは異なる政治的立場への配慮を含みつつ生徒一人ひとりに政治的ポジションを取らせることを促しています。

ドイツ東西統一以降、特にドイツの「市民性」の教育やヨーロッパ移民問題などの多文化・他宗教教育の観点が重視されてきました。

しかし英仏におけるシティズンシップ教育との間に大きな違いがあるのは、ドイツが敗戦国ということ、ナチズムに対する反省(イスラエルとの関係改善のための異教・異文化への理解)、東西の分割と統合などの歴史的背景によるものでしょう。

(参考記事:シチズンシップ教育は民主主義の基本!話し合いスキルを身につけさせるフランス

空回りし遅れている日本の「18歳選挙権」投票啓発活動

日本の教育現場においては、「シティズンシップ教育」は未だに浸透していません。

浸透していないどころか、政治参加能力や政治判断能力を育てる教育がほとんど何も行われていません。

そんな中で選挙権年齢が「18歳」に引き下げられ、今年の夏には参院選が行われます。

東京都選挙管理委員会による啓発アニメ動画が流れていますが、アニメキャラとタレントが「18歳から選挙権!」とただ連呼する内容で「低俗」「税金の無駄使い」などと辛辣な意見が相次いでいます。

国際医療福祉大学の川上和久教授(政治心理学)は、動画について「論評に値しない」とし「子供っぽいことをやらずとも、若者が選挙に行くように常に啓発を続ける必要がある。」とコメントしました。(出典元:産経新聞2016年5月30日付)

政治は「正解」が存在しにくい分野で、政治家も有権者も、判断や意見の分かれる問題についてそれぞれが思考し、対立する考え方も理解しつつ自分の立場を決め行動するという一連の能力を磨かなければなりません。

市民一人ひとりが民主主義を実行する日本になるには、まず小中高で日本に即した「シティズンシップ教育」の実施が必須条件です。

 

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