2016.05.30 主権者教育

アメリカ版「シティズンシップ教育」は教育目標の中心、子供の頃から訓練で政治参加力を養う!

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アメリカにおける「シティズンシップ教育」は民主主義にとって不可欠なもの

アメリカの学校におけるシティズンシップ教育の歴史は古く、1916年、全米教育協会中等教育再編委員会は「中等教育における社会科」中高生を対象とした「民主主義の諸問題」や「市民科」のコースの設置を提起し、アメリカ版「シティズンシップ教育」の基盤となりました。

1994年に成立した法律「2000年の目標:アメリカ教育法」は、生徒の学力や職業技能を国際的な経済競争に耐えうる水準にまで引き上げることを主な目標とし、各教科のカリキュラムにおける全米共通スタンダードの作成を促すものでした。

そしてこの法律を受け、民間団体が連邦教育省の支援のもと「市民科と政治の全米共通スタンダード」を作成し公表しました。

その共通スタンダードでは「シティズンシップ教育は、アメリカの学校教育にとって付随的なものではない。アメリカの教育目標の中心であり、健全なアメリカ民主主義にとって不可欠のものである。」という「シティズンシップ教育」の大切さが強調されています。

こうした背景には、フランス同様、アメリカ人という多民族・多宗教の集合体を民主主義の教育の元にいかにまとめるかという大きな社会的・政治的問題があります。

(参考記事:シチズンシップ教育は民主主義の基本!話し合いスキルを身につけさせるフランス

現在のアメリカの「シティズンシップ教育」は連邦、州政府、学校、民間団体が連携し実施されています。

例えば2004年の米国大統領選では、アメリカ中の約150万人の子供が11万カ所の投票所で模擬投票所が行われ、その規模の大きさは世界一だったのではないでしょうか。

今回はアメリカ版「シティズンシップ教育」の活動についてご紹介します。

誰に投票していいかわからない!?小学校より「判断力」を磨く

投票率の低下、その原因は一般的に「誰に投票していいかわからない」層があるからとも言われています。

このような事態は結局、国民に対して「投票を決める判断力」の訓練や技術習得の教育をおざなりにし「年齢だけで有権者」としての責任を与えるずさんな教育の結果の一つです。

残念ながら日本における「主権者教育の欠如」は政治参加力を下げる政治的構造の欠陥とも言えます。

ただ単に理論としての政治の仕組みや法律を学ぶのではなく、「日本的価値や国民意識」や「複雑化するグローバルな問題解決」のためにも、「シティズンシップ教育」を小学校より周到に実践すべきです。

(参考記事:「シティズンシップ教育」と「クリック・リポート」、結果として何が身につけられるか?!

さて、アメリカでは「投票を決める判断力」のトレーニングとして、小さい子供の頃から徹底的に自分の意見を決める「判断力の訓練」が行われています。

ここでは小学校低学年より「内容を理解せずに投票をしてしまう怖さ」を学ばせ判断力を磨く事例を紹介します。

(参考元:「投票率向上の第一歩は、子供の頃からの教育」横江公美著)

教師が生徒に3つの問いに賛成か反対かで手を挙げて応えてもらいます。

  1. アイスクリーム
  2. 宿題
  3. 休み時間

そのあと教師は紙を配ります。

  1. にんにく味のアイスクリームを学校給食で提供する
  2. 週末の宿題をなくす
  3. 休み時間は腹筋の訓練にする

生徒はこの紙を見て、自分が選んだものが自分のイメージしたものでないことに気がつきます。

単純なことですが、こうした体験を繰り返し経験することにより生徒は、

内容を理解せずに雰囲気だけで決め投票すると「投票の罠」に陥ってしまうことがあることを学びます。

選挙で誰に投票するかを決める「意思決定」の際に情報収集は要になり、またその情報源の信ぴょう性を確認することが重要です。

アメリカでは小学校の時から「意思決定」の方法を授業内で訓練し、意思決定は雰囲気や感情、周りの人の意思で決めるのでなく念入りに情報収集し、それに基づいて行われなければならないということを体験を通して学ばせます。

Portrait of diligent schoolkids and their teacher talking at lesson

何を基準に政治家を選べばいいの!?「争点教育」の重要性

アメリカのシティズンシップ教育で注目されるもう一つの点は時事問題に関する「争点」学習です。

「争点教育」では、何が争点か教えてもらうという受け身の教育ではなく、自らがメディアなどを通して情報を集め、思考し、論理を組み立てて判断させます。

アメリカでは大統領選挙は約2年、中間選挙で約1年近く選挙キャンペーンが繰り広げられ、テレビ番組やネット、ソーシャルメディアなどあらゆるメディアを通じて選挙態勢になります。

有権者はメディアで話題になっていたり自分にとって大事な「争点」に対し、政党はどのような政策を提案し候補者はどのようなビジョンを持っているのかなど有権者は争点に関する考えを決め、それを元に誰に投票するか材料にします。

時として「争点」に対する政治家の考えが投票の決定材料になり、それ故に子どもの頃より「争点教育」が重要になります。

争点を議論する授業では教師が賛成反対の指針を提供し生徒たちはそれぞれの立場から情報を収集して判断します。

争点に関するアメリカ版「シティズンシップ教育」の3つの共通原則は、

  1. 賛成か反対の立場をとる
  2. 時事的なテーマを取り上げる
  3. 時事問題は教科書に載っていないのでマスメディアの協力が必要

です。

3のマスメディアが協力した事例として、2003年全米公共ラジオ(NPR)の「ジャスティス・トーキング」という「争点教育」の討論番組を紹介します。

「ジャスティス・トーキング」では毎週中高生に関心のある争点を1つ取り上げ、それについて賛成・反対の立場の専門家が議論を行いその後、質疑応答に応えるというラジオ番組を放送しています。

若者の「争点に対する考え方の形成」の補助を目的とし、当時アメリカで議会が「節制教育*」に1億ドル(約110億円)支出することが決まり、2003年に争点「高校での性教育のあり方について」の議論が行われました。

*「節制教育」とはブッシュ政権で掲げた「禁欲教育」とも言われたメインの政策。その背景は、「荒療した地域の貧しい家庭に育ち、学校での成績は振るわず、危険な仲間とつるみ、学校からは早い段階でドロップアウトする。10代半ばで性行動を超こし、妊娠し、未婚のうちに出産する。」というアメリカが抱えてきた10代の妊娠問題です。多くの場合、社会的不利が10代の性行動や出産に影響を与えていることが明らかにしました。

ラジオ番組では、今までの法律、新しい法律、現状について説明し、賛成者の代表は健康福祉省のホーン次官補、反対者の代表は非営利団体「若者の主張」のウェゴナー所長が議論しました。

ホーン氏は避妊の教育は初体験を早めることになりかねないと「節制教育」のみが望まない妊娠や性病の予防になると主張し、ウェゴナー氏は初体験を遅らす目的のための教育よりもっと現実的な教育を行うことが重要だと反論を展開しました。

番組は「ディベートの模範例」を示すことを目的ともしており、二人が議論する争点についてリスナーは一緒に考え、自分の論理力を磨くことができます。

現在では「ジャスティス・トーキング」は二つのウエブサイトを作り一つは過去の番組をデータベース化し、争点に関連する法律の紹介をし、もう一つのサイト「ジャスティス・ラーニング」では、ニューヨーク・タイムズの協力のもと、議論に関係する新聞記事を掲載しています。

つまり争点に関して法律の面から、新聞記事からも理解できるインフラを作り、また教師向けの指導計画も記載されており、学校を含めた争点整理ができる環境を日々更新しながら整えています。

(参考元:「有権者予備軍への争点教育」横江公美著)

シティズンシップ教育の世界的普及

イギリスにおいて1998年に通称「クリック・リポート」は「シティズンシップの 教育と学校における民主主義の教授」と題する報告書が、ロンドン大学教授バーナード・クリックを議長とする「シティズンシップ詰問委員会」より発表されました。

(参考記事:シティズンシップ教育がつくる新しい社会、イギリス

この「クリック・リポート」の考え方が欧米の「シティズンシップ教育」の基盤となり、現在ではそれぞれの国が抱えている問題に即した「シティズンシップ教育」が模索され実施されています。

日本における「シティズンシップ教育」は、欧米と比較するとはるかに遅れています。

日本の子供達は反社会的・非社会的なばかりでなく「脱社会的」ではないかと言われ、これは日本における「民主主義は自由だ」という曖昧な認識によってさらに深められているとも考えられます。

日本における民主主義の再認識と社会参加を促す「シティズンシップ教育」は緊急課題で全国規模で取り組むべきです。

それには早急な「日本版クリック・リポート」の作成が必要で、その実現に期待します。

 

現在、アメリカでは大統領選のキャンペーンがヒートアップしています。

トランプ VS クリントン、「子供」の選択はいかに?

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