2016.05.23 主権者教育

「シティズンシップ教育」と「クリック・リポート」、結果として何が身につけられるか?!

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「シティズンシップの教育」の報告書「クリック・リポート」の生い立ち

1998年に通称「クリック・リポート」は「シティズンシップの 教育と学校における民主主義の教授」と題する報告書として、ロンドン大学教授バーナード・クリックを議長とする「シティズンシップ詰問委員会」より発表されました。

「シティズンシップ教育」とは、”社会の構成員としての市民が備えるべき「市民性(シティズンシップ)」を育成するために行われる教育であり、集団への所属意識、 権利の享受や責任・義務の履行、公的な事柄への関心や関与などを開発し、社会参画に必要な知識、技能、価値観や傾向を習得させる教育”と定義されています。

1990年代より、「シティズンシップ教育」は主に欧米社会で注目され始めました。

(参考記事:シチズンシップ教育は民主主義の基本!話し合いスキルを身につけさせるフランス

欧米主要国の政府はこぞって「シティズンシップ教育」に関するスタンダードの作成や報告書の発表、ワーキング・グループの設置を推進しました。

1997年に当時ブレア政権であったイギリス政府が「シティズンシップ詰問委員会」を設置し、同議会は冒頭で示した「クリック・リポート」を公表しました。

今回はシティズンシップ教育の本髄、「クリック・リポート」とその後の展開について説明します。

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「クリック・リポート」とは

シティズンシップ詰問委員会(英国)が報告した「クリック・リポート」は、イギリスが「参加する市民から構成される国とならなければ、我々の民主主義は安泰でない」とし、1998年、現代社会のイギリスの市民は「公的生活に対する無関心、無知、冷笑的な態度(シニシズム)が懸念すべき段階にある」と注意を喚起しました。

「クリック・リポート」は能動的な市民の育成のために、下記3つの柱から構成される「シティズンシップ教育」の大切さを説き、「シティズンシップ」教育を法令教科とするように提案しました。

  1. 社会的道徳的責任
  2. 地域コミュニティへの参加
  3. 政治リテラシー

クリック自身は、3の「政治リテラシー」を最も重視していたと言われています。

さらに「シティズンシップ教育」を実践するにあたり、詳細な学習内容 (Input) を規定せず、学習成果 (Output) のみを厳密に定め、学校が地域の実情に沿うよう対応すべきと提言しました。

そして、「シティズンシップ教育」の実践はひとつ間違えるとボランティア活動になりがちで、それでは単なる「使い捨て要員」を育てるだけとなってしまい、政治・文化的改革を担う積極的な市民の育成にならないので気をつけなけれならないとクリックは注意しました。

こうして「クリック・リポート」を元に2002年に「シティズンシップ教育」は、イギリスで中等教育(11歳〜16歳)の必修科目と決定されました。

(参考記事:シティズンシップ教育がつくる新しい社会、イギリス

多様性のある「シティズンシップ教育」に向けて「クリック・リポート」その後の発展

「クリック・リポート」がイギリスで必修科目となったその後、米国で9・11同時多発テロ事件(2001年9月)、ロンドン同時多発テロ事件(2005年7月)など起き、またイギリス国内での移民の急増による社会問題が複雑化しました。

そうした紛糾した問題によって「文化・宗教・民族的多様性」や「イギリス市民としてのアイデンティティー」に関して議論が活発化しました。

有識者や閣僚から「イギリス的価値や国民意識」や「多民族・多宗教の問題に対する理解」を「シティズンシップ教育」にとり入れるべきだという意見があがりました。

2007年、イギリスの教育技能省(現子ども・学校・家庭省)の委託を受けて、 キース・アジェグボら「アジェグボ・レポート」をまとめました。

「アジェグボ・レポート」は、「クリック・レポート」で示された「社会的道徳的責任」「コミュ ニティへの参加」「政治リテラシー」に加えて、「アイデンティティと多様性」を4つ目の柱とするように提言しました。 

2008年 、「アジェグボ・レポート」を受けて「文化的多様性」が概念のひとつとして取り入れられ、新カリキュラムとして実施され、「クリック・レポート」と同様に「市民性教育」に大きな影響をもたらしました。

イギリス社会において、特に移民の子どものように多様な背景をもつ子ども達に対して、イギリス市民としての意識やその単一でないアイデンティティを高めるため、「文化的多様性」の概念が必要とされました。

フランスでは、「シティズンシップ教育」とテロ予防はリンクしています。

つまり、社会的に排除されたイスラム系の移民の子供(若者)は、就職・進学がままならず自分たちのエネルギーを持て余し、不満や憎しみをISなどの国際的なテロ組織に利用されています。

こうした社会的状況がフランスのテロ事件の根本とも考えられており、イギリスにおいても同様に移民問題を解決していくには、「アジェグボ・レポート」の提供した「文化的多様性」の概念が必要とされました。

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日本版「クリック・リポート」が求められている!

日本社会でも、市民意識の欠如から社会的つながりの希薄化、投票率の低下、無関心、疎外感といった多くの問題が生まれています。

個人を責任ある市民として社会や政治に参加させるという「シティズンシップ教育」の取組みは日本の未来に必要不可欠な教育課題です。

日本における「シティズンシップ教育」の活動は欧米に比べ、まだ活発ではありませんが、先駆的な取り組みをしている活動をご紹介します。

2006年6月に経済産業省 、三菱総研の「 シティズンシップ教育と経済社会での人々の活躍についての研究会」(宮本みち子委員長・放送大学教授)が 「シティズンシップ教育宣言」を出しました。

この宣言では 、「市民に奉仕活動を義務付けたり、国家や社会にとって都合のよい市民を育成しようという目的のもので はありません」と注意点が記され、「 社会の意思決定や運営の過程において、個人としての権利と義務を行使し、多様な関係者と積極的に関わろうとする資質」としての「シティズンシップ教育」の必要性が提起されています。

またお茶の水女子大学附属小学校の「市民教育」では、社会科の時間を「市民」に改めた新教科とし、市民活動に必要な知識やスキルや責任ある市民として意思決定していく資質を育てる教育を実施しています。

注目すべき点は、「異質な他者と関わるスキル」を育てることを重視しており、「社会参加」と「政治リテラシー」の育成をはかっています。

その他、品川区の小・中学校で実施された「市民科」やNPO法人ライツが運営する学校での「模擬選挙」などが挙げられます。

私たちはまだ数少ない日本国内で活動を広め、自立した市民の育成をはかっていかなければなりません。

政府、コミュニティ、子供たち、教職者、家族、学校など協力し社会全体が進化し発展し、生きた教育をしていかなければなりません。

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