2016.05.16 主権者教育

シチズンシップ教育は民主主義の基本!話し合いスキルを身につけさせるフランス

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フランスの「シティズンシップ教育」 学校は市民参加のための「コミュニティ」

今、「シティズンシップ教育」の必要性が高まり、世界中で注目されています。

(参考記事:シティズンシップ教育がつくる新しい社会、イギリス

日本ではまだ「シティズンシップ教育」は耳慣れないかもしれませんが、フランスでは学校生活そのものを「シティズンシップ教育の実践の場」とするという取り組みをしています。

つまり、学校は大勢の子供達を効率的に教えるための便宜的な「集合体」ではなく、一人一人が市民として参加する「コミュニティ」として位置づけられています。

フランスの生徒たちは学校で送る毎日の生活の中で民主主義の基礎を学び、「議論や意思決定に積極的に参加する」という育成が行われています。

例えば学校づくりとして、生徒会をおき学級委員や生徒会長を民主主義の選挙に摸して選出し、生徒会に責任を持たせ限定的ではありますが権限を与え運営させたり、意見の違う生徒同士に対して「暴力に訴える」のではなく「話し合い」を通して解決したり、仲裁するという活動が広く行われています。

教師が一方的に授業で教えるという形ではシティズンシップ教育の普及はできません。

多民族と多宗教の集合体ともいえるフランスは、子供社会においても差別・格差・対立・憎悪などの根深い問題があり、実はシチズンシップ教育の充実とテロの予防はリンクしています。

この記事ではフランスにおける独自のシティズンシップ教育の活動と日本社会における課題について説明します。

複雑な社会構造のフランス、多民族と多宗教の集合体

日本と異なりフランスは、多種多様な人種で構成され、国民は、民族や宗教によって価値観が大きく異なります。

言ってしまえばフランスは「道徳的な共通価値」が薄くなりがちな社会構造をもっています。

その中で、「フランス社会の市民として守るべきモラル」を位置づけなければなりません。

それを小学校課程から「シティズンシップ教育」の中で実現していくという試みをしています。

そういう意味においても「シティズンシップ教育」は社会に必要とされ、機能します。

また多感な時期の若者の成長過程で、ドラッグやセックス、就職難、差別の問題に対しても、一市民として問題解決に向けどのように対応するかという実践的な活動をさせています。

小学校から高校にかけ「シティズンシップ教育」を実行し、多民族や宗教の入り混じった複雑なフランス社会において、そういう社会だからこそ、「差別的で短絡的な思考をせず平和的にどう解決するか」を「フランス一市民」として考えさせ実践させることが重要です。

「フランス一市民」としての意識と社会問題解決に向けた能動的な行動をするという教育が、結果的に、政治家や政党を知り、「選挙に投票に行く」という行動につながっていきます。

 

フランスの小学校でのシティズンシップ教育の具体例:合意点を見出す

ある小学校ではクラスに意見箱を設け、生徒がクラスの中で起こったことを匿名で紙に書き意見箱に入れるようになっており、それを討論の時間で解決策を見出します。

重要な点は、問題がある時に喧嘩や暴力で解決するのではなく、その状況について客観的に考え、紙に書き提出しそれを制度化することです。

そしてクラスの他の生徒たちと教師が仲介をしながら解決を図り、話し合いの中で生徒たちに考えさせ意見を表明させます。

意見表明の際のルールは、例えば「A君が Bさんを叩いた」という問題の場合「A君が叩いた」という行為は非難しても良いが「A君」そのものを非難してはいけません。

特徴は「罪を憎んで人を憎まず」の点と二度と罪を犯さないように教師が指導するのではなく、生徒主体で考えさせ解決の合意点をみつけさせるところです。

「A君」は今後は「叩く」のではなく問題の理由を意見箱に投書することで合意されました。

(参考元:山田真紀 椙山女学園大学准教授「教室をコミュニテイに「共に生きる」の実践」)

恵まれない地域への「シティズンシップ教育」とテロ予防

フランスは多民族や宗教の入り混じり貧富の差の大きい複雑な社会で、その社会においてどのように「シティズンシップ教育」を普及させていくのでしょうか?

フランスの学校教育における特徴的な制度の一つに、1981年に導入された「教育優先地域 (ZEP)」があります。

「教育優先地域 (ZEP)」と聞くと日本であれば、普通の学校と比べ、より高度で先進的な教育をするようにイメージしますが、違います。

「教育優先地域 (ZEP)」とは、家庭に恵まれない子供たちが多く暮らし学業達成レベルが他の地域に比べ低い地域に対して、その他の地域よりも多くの教育的資源が配分される制度です。

簡単に言えば生徒の成績が低く落第や中退する者の割合が高く、またさらに親の失業、生活保護を受けている家庭、ひとり親世帯が多い「社会的・経済的に恵まれない」地域が「優先教育地区(ZEP)」に指定され保護されています。

「優先教育地区(ZEP)」内の学校は財政と教育面で特別に支援され、教育的資源の配分の中に「シティズンシップ教育」も組み込まれています。

こうした地域は実際には移民家庭が多く、フランス文化や歴史も知らずフランス語のレベルも低い場合が多く、そうしたことが学習の遅れや障害にもなっています。

教師が教室に入ってきても騒ぎ、話を聞かない、言葉じりをとらえて勝手に持論をぶつけたり、席を立ったりと授業にならないクラスも珍しくないそうです。

移民家庭の親もあまりフランス語を理解できない場合が多く、学校に呼ばれてもコミュニケーションがうまく取れなかったりと家庭との連携指導が困難です。

フランスに移住し、人種的差別を受けいい就職につけない親の子供たちの多くは、人種的に憎しみを持ち、攻撃的で心理的に不安定になりがちです。

こうした地域は調和的な生活が社会構造上難しいとされ、そういう地域の子供たちの健全な成長を促すためにも「シティズンシップ教育」を導入し「フランス市民」としての共通意識とが高めることが望まれています。

フランス起きているテロ事件の根本は「白人による人種差別」による「人種的憎しみ」だという見方もあります。

フランスの白人一般社会において知識層は、海外旅行・留学の経験や諸外国とのビジネスなどを通して、異文化に対して知識や理解がありますが、労働者階級・中産階級などの低学歴の人々の間では、「外国移民」は自分たちの職を脅かす存在でしかありません。

社会において、イスラム教徒の大半はスラム街のような貧しい地域で暮らす貧困層で死体清掃やゴミ・廃品回収、よくてタクシー運転手と、なかなかいい仕事に就けません。

当然、イスラム教徒の間でも抑圧された格差社会、宗教・人種差別の現状に対する不満が鬱積していきます。

その不満や人種的憎しみをISなどの国際テロ組織が利用し、フランス国内に住んでいるイスラム系の若者にプロパガンダ・リクルート動画などをネットで流し、ソーシャルメディアを通じてコミュニケーションをとり思想的な影響を与えています。

簡潔に言えば、社会的に排除されたイスラム系の移民の子供(若者)は、就職・進学がままならず自分たちのエネルギーを持て余しその矛先をフランス国内のテロ活動に向け、こうした社会的状況がテロ事件の根本とも言えます。

そういう意味でも「シティズンシップ教育」とテロ予防はリンクしています。

また、学校は地域のコミュニティと連携をとり、家計の悪化→家庭崩壊→子供の学業不信→就職難→貧困という悪循環を、教育だけでは解決しきれない社会構造的な問題として捉え、協力しながら解決しています。

 

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日本社会における「シティズンシップ教育」の課題

それでは日本の子供たちに向けた「シティズンシップ教育」とはどうでしょか?

日本の「シティズンシップ教育」の実践は社会の中においての実践が難しいのではないかと言われています。

日本はこれから教育と社会・地域がさらに連携し実現していかなければなりません。

フランスの特徴として、日常的に政治の話をする文化があげられます。

どの政党を選ぶかによってフランス社会がどのように変わり市民が影響を受けるかが分かりやすいこともあり、大人も若者も、家庭や職場、学校で日常的に政治や社会問題の話を交します 。

しかし日本人は、どの政治家を、どの政党を支持しているのかを他者に尋ねることを積極的にせず、相手のプライバシーや思想を侵さないよう配慮します。

こうした個人の様々な細かい配慮が社会の中で美徳とされ、ある意味洗練された文化をつくっていますが、学校や職場で政治の話を日常的にすると、思想家や政治的活動の宣伝ではないかと間違えられかねません。

要するに日本社会では、職場などの公の場では日常的に政治の話や議論を交わすことは、人に敬遠されてしまう傾向があります。

日本における「シティズンシップ教育」は、実社会において、学んだ知識や経験がそのしくみや問題とうまくリンクするようにつくらないとリアリティが生まれません。

教師は生きた教育を目指し、自分 が今教えている知識が現実社会とどう結びついているのか理解し、それが子どもたちの中で力になるように指導していかなければならないのです。

決して「シティズンシップ教育」を教師が授業で教えることだけが教育目標となってはならないのです。

Portrait of smart schoolgirls and schoolboys looking at the laptop in classroom

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