2016.02.18 アベノミクス

日銀の金利政策が裏目に?!なぜ「マイナス金利」導入で株価は下落し円が高くなったのか?【解説】

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日銀の期待を大きく外れ円高・株安が進んだ市場

今年(2016年)1月29日に、日銀の黒田総裁が突然の「マイナス金利」政策導入を発表してから、市場は大きく揺れ動きました。

当初、市場は株高・円安の方向に動いていたのですが、しかし、すぐに完全にその逆に向かってしまうことになりました。

結果的に、発表から2週間で株価は暴落し、円は暴騰することとなりました。

マイナス金利で株価下落

当然、日銀としては今回の「マイナス金利」政策で、円安と株価上昇を期待していたはずです。

確かに、発表直後はドル円のレートが3円以上も円安方向に振れて株価も大きく上昇しましたが、その後、急速に円高・株安が進み、日銀の思惑とは大きく外れた形になっています。

サプライズ後の、日本を含む世界の金融市場の動きは、普通では解釈ができない動きをしています。

追加緩和によって、円安・株価上昇を狙っていた日銀としては、これは大きな誤算だといえるでしょう。

今回は、このような通常では考えられない動きを市場でもたらした理由と、世界の金融市場がどのような思惑で動いているのかを考察してみます。

 

通常ではありえない?!「マイナス金利」政策で円高・株安が進む

日経平均株価は、「マイナス金利」政策の導入が発表された直後の2月1日には、1万8000円付近に上げ戻していました。

これは、発表による、ほぼ想定された動きだと言えるでしょう。

ところが、翌週の2月9日には、日経平均株価は918円安と大幅に下げ、終値は1万6085円まで下落しました。

さらに、翌日以降も売られ、株価は下げ続け、いったんは1万5000円台の節目をも割り込む形となりました。

発表直後の値上がりから、株価は約3000円近くも下げたことになります。

その一方、「マイナス金利」の発表直後には、1ドル121円台にまで下がっていた円相場は、その後、逆に円高に向かい、一時は110円台にまで円高が進みました。

通常、金利が下がれば、受け取る金利が減る通貨の価値は下がり、株価は上がるとされています。

ところが、実際に起こったことはその逆で、金利が下がって普通は下がるべき円が逆に上がっていて、上がるべき株価は下がってしまいました。

一体なぜ、こんな通常とは逆転した現象が、金融市場で起こったのでしょう。

 

「マイナス金利」政策を導入したのに円高・株安が進む

新聞・テレビなどのメディアでは、この現象を「リスクのある株を売って、より安全な円や日本国債の購入に向かっている」という理由づけで報じています。

また、「マイナス金利」政策によってもたらされた株式市場への影響に関して、多くのアナリストが解説をしています。

それによると、マイナス金利によって銀行など金融機関の収益を圧迫されるので、銀行株を中心に株価が急激に下落したということです。

そして、この銀行株の急落によって生じた混乱により、売りが売りを呼び、株価全体を下げることとなってしまい、その結果、リスク回避としての円買い(円高)につながったというのが、今回の乱高下の理由だと説明しています。

一般に、短期的な株価や為替の動きは、思惑による売り買いもあるので、基本的には予測不可能なものです。

したがって、「マイナス金利」政策が株価を下げたような意見もありますが、今回の反応だけでは政策の効果は判断できないのです。

しかし、今回の市場の混乱の陰には、さまざまな投資家心理が見え隠れしています。

何よりも、日本だけでなく世界的に株価が下がっていることから、今回の発表だけではなく、別の外的な要因が存在することを示しているといえます。

 

最大の要因はアメリカ経済の鈍化懸念

それでは、株価下落の最大の要因はいったい何なのでしょうか。

それは、世界中の投資家たちが、これまで世界経済の牽引役とされてきたアメリカの経済成長が鈍化しているという懸念を抱いていることです。

経済指標によって、アメリカ経済の柱となる非製造業の景況感がここへきて大きく鈍化していることが示され、それを裏付けるかのような企業の決算発表への失望も相次いでいます。

それにより、長期金利は急低下、期待されていた3月以降の利上げ予測も大きく後退しました。

さらに、原油価格は再び30ドルを割り込み、アメリカの石油関連企業の破綻もささやかれています。

世界中の投資家が、これらアメリカ経済への不安からリスク回避に走ったことで、株が世界的に売られ、比較的安全だとされる円や日本国債に買いが集まっているのです。

金利がこれほど下がっても国債が買われているということは、世界経済に対する危機感がそれだけ強いことの裏返しだといえるでしょう。

 

金融市場における原則の変化

金融市場での通貨の売買額は、株式市場での売買額の何十倍も大きいため、株価より通貨の市場の方が大きく動くことになります。

また、国際的に投資家の間では「ポートフォリオ」と呼ばれる分散投資が行われているため、通貨の動きに連動するように、株価や金利が値動きします。

現在は、2008年のリーマン・ショック以降、ほぼ金利ゼロ%の状態が続いており、さらに、日本とヨーロッパにおいては「マイナス金利」になっています。

このため、金融の分野において金利は機能をほぼ失っており、各国政府としては、金利ではなく「通貨の価値を動かすこと」が金融政策であるとも言えるでしょう。

これは、通貨価値の上昇・下落によって、経済状況、特に株・債券などの価格が変動するということです。

⑴「マイナス金利」政策で円が高騰した理由

日銀が利下げをすれば、円における金利が下がるので、通常は円安になります。

今回、日銀は日銀当座預金の今後の増加分に対して、-0.1%というマイナス金利を設定しました。

マイナス金利は、円の当座預金を持って入れば、円預金は減っていくということを意味しています。

したがって、普通の状況で他の条件が変わらないなら、円売り(=ドル買い)超過になって、円の価値は下がるはずです。

ところが、実際にマイナス金利の後に起こったのは、その逆の円買い(=ドル売り)の超過です。

つまり、これまで以上にドルを売って円を買う動きが多くなり、そのため、利下げにもかかわらず、逆に円高になってしまったのです。

この理由としては、円の長期金利の下げ幅(約0.25%)よりも、2016年3月における利上げ予測が消えたことを想定したドルの長期金利の下げ幅(約0.48%)の方が、約2倍も大きかったからです。

市場では、「織り込み」と言って、2〜3ヶ月先に予定された、相場に影響のある経済指標や動向・業績などの材料(要因)が既に相場に反映されているケースがほとんどです。

市場において、すでに結果を「織り込み」済みである場合には、何らかの発表がされた後でも、その結果に関わらず、値動きがこれまでとは反対の動きを示すことが多いのです。

今回に関しては、すでに利上げが織り込み済みであった現在のドル金利が、利上げ予測が消えたことによって大きく下げてしまったため、ドル売り(円買い)が増えたのです。

したがって、金利がマイナスにまで下がったのに、円が買われドルが売られ、その結果、円高になるという奇妙なことが起こりました。

ドルの金利が2%台なので、さらに円の金利を下げれば(マイナス金利)円安になると考えるのが通常でしょう。

金融市場での「織り込み」の影響はそれほど大きいものなのです。

⑵「マイナス金利」政策で株価が下落した理由

上に述べたように、日本の株価は通貨(円相場)の動きに連動し、基本的に円がドルに対して1円円高になると、日経平均が300円ほど下がるという性格をもっています。

  • ドルに対して円高の動き → 日経平均が下落
  • ドルに対して円安の動き → 日経平均が上昇

という動きをすることになります。

通常、為替相場は24時間ずっと開いているのに対して、日本の株式相場は日中に限られているため、通貨の動きが先に起こり株価がそれに連動して動くように見えます。

通貨と株価が連動する原因としては以下の2つです。

  1. 海外からの売買が、日本における株式市場の60〜70%を占めていること
  2. 海外のヘッジ・ファンドの多くが、「円高→日本株売り」「円安→日本株買い」にプログラムされたアルゴリズムを使って取引をしていること

一般に、日本の株価はそれら外国のファンドが3000億円以上買い越した週は上がり、3000億円以上売り越した週は下がると言われています。

それほど、日本市場に占める外国人投資家の割合が大きくなっているのです。

さらに、それらヘッジ・ファンドと呼ばれる投資家は、アルゴリズムに基づいたシステムトレードを行っています。

今回の株価の変動は、120円から110円台への円高(10円)に対して、日経平均は1万8000円から1万5000円へと約3000円の下落となりました。

したがって、1円の円高に対しての日経平均の下落は約300円となっており、ほぼ上記の通り、通貨と株価が連動するという性質を示すことが明らかとなっています。

 

今回の相場の動きは日銀にとっては誤算だった

そもそも日銀が金利をマイナスにしたのかといえば、それは、原油と資源価格の下落で、物価の上昇が消えつつあるためです。

2%のインフレ(物価上昇)目標の達成を掲げている政府・日銀にとって、これは不都合なのです。

しかし、本来、原油などの資源の多くを輸入に頼る日本にとっては、輸入価格の下落は資産の海外流出が減ることになるので、結果として国民経済にとってはプラスとなるはずです。

それでも、政府・日銀は目標達成を何としても成し遂げようと、「マイナス金利」政策の導入に踏み切りました。

しかも、タイミングの悪いことに、その発表後に今回の円高・株価下落の事態となってしまいました。

日銀としては、これまでの量的・質的緩和に加え、さらに「マイナス金利」と言う3方向からの金融緩和により、出せる手段は出し尽くしたと考えられます。

ここから、さらなる円安・株価上昇を図るために日銀に残された手段は少ないというのが現実だと思われます。

このような事態は、日銀にとって誤算だったとも言えるでしょう。

ただ、「マイナス金利」導入のそもそもの狙いは、市中に出回るお金の量を増やすことによって、企業の設備投資や賃上げを後押しして景気を上向かせることです。

その結果として、最終的に物価上昇率目標2%が達成できればいいわけです。

今回見てきたように、短期での市場の動きは、思惑による売り買いが大部分を占めており。政策の結果として直結したものとは言えません。

したがって、「マイナス金利」政策が間違っているかどうかは、市場の反応だけでは判断できないのです。

私たち国民の側としては、この「マイナス金利」政策が、今後、円安、株高、そして経済活動の活発化につながって行くかどうか、しばらくは注意深く見守っていくことにしましょう。

 

※希望日本研究所 第8研究室

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