2016.01.25 憲法改正

憲法改正とは?(2)~「緊急事態」に対する護憲派の批判が全く的はずれである理由を明らかにする~【憲法改正基礎知識シリーズ】

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安倍首相のいう緊急事態が本当に必要である意味とは

「内閣限り(の決定)で法律と同じ効力を持つことができるなら、ナチス・ドイツの授権法(全権委任法)とまったく一緒だ。許すわけにはいかない」

国会での議論の中で安倍晋三首相が挙げた憲法改正の最優先事項「緊急事態条項」に対し、護憲派である社民党の福島瑞穂氏がナチスドイツを引き合いに批判をしたものです。

これに対し安倍首相は「限度を超えた批判」だと憤り、「(緊急事態条項は)国際的に多数の国が採用している憲法の条文だ。そうした批判は謹んで頂きたい」と逆に強く反論しました。

安倍首相は、2016年の夏の参院選で憲法改正を争点にすることを明言、特に大災害や他国による武力攻撃に備えるための「緊急事態条項」を最優先にすることを述べたことを受けた国会で一幕です。

では安倍首相が最優先に挙げる「緊急事態条項」とは一体どんなものなのでしょうか?

ここでは

・「緊急事態条項」とは何か?

・批判を受けたナチスドイツ事例がまったく的はずれである理由とは?

・「緊急事態条項」を導入しなければならない本当の意味とは?

この3つの問いに答える形で、憲法を改正し「緊急事態条項」を導入しなければならない真の理由を解説いたします。

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「緊急事態条項」とは何か?

日本国憲法を改正して導入しようとしている「緊急事態条項」とは、大規模な自然災害や外国からの武力攻撃に対処するため政府の権限を平時より強化し、非常措置により秩序の回復を図ろうという考え方のものです。

緊急時には、平時に当然、認められている国民の権利や自由を一時的に制限する。制限内容はさまざま考えられますが、例えば当たり前の国民の権利である流通の自由(の享受)を制限し、「物資の統制」などを行うことなどが挙げられます。

そうしなければ大規模災害や戦争のような緊急事態は乗り切れず、救える命も救えず、復興に支障が起こるのです。

国際的に決められている人権についての条約・国際人権規約というものがありますが、そこでは、「非常事態」に基づく宣言下で一時的に自由・権利を制限することを認めています。

こうした規約もあり日本以外のほとんどの国の憲法に「緊急事態条項」があるのです。

駒澤大学名誉教授の西修さんは、1990年から2012年までに憲法を制定、改正した世界100カ国の憲法すべてに「緊急事態条項」があった、と指摘しています。

具体的にドイツは1968年に憲法改正をして「緊急事態条項」を加えました。

共産圏との戦争など平常時では対応できない国家を脅かす緊急事態に際し、政府が、人権を制限するといった非常措置をとり、秩序の回復を図ることが必要だ、と考えたことからでした。

最近では昨年パリを襲った同時多発テロを受け、フランスのオランド大統領が、憲法改正をして、フランス憲法に「緊急事態条項」を加える意向を述べました。

フランスでは具体的に、国内のテロ対策を強化するため、危険人物を国外に追放したり、過激な思想を持つモスク(イスラム礼拝施設)の閉鎖を命じたりすることなどを考えています。

以上のように「緊急事態条項」とは、国を脅かすような非常事態に対し、平常時の国民の権利などを一時的に制限、非常措置により国の秩序の回復を図ろうという考え方のものです。

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批判を受けたナチスドイツ事例がまったく的はずれである理由とは?

安倍首相の緊急事態を批判した護憲派・社民党の福島瑞穂氏が引き合いに出したナチスの事例とは1933年、独裁をもくろむヒトラーが制定した「全権委任法」という法律のことです。
確かにこれは戦前のドイツ憲法であったワイマール憲法を崩壊させました。

しかしそれにもかかわらず当のドイツは戦後、誕生させた憲法をちゃんと改正し「緊急事態条項」を導入しました。

これはどういうことなのか事情を見てみましょう。

まずはワイマール憲法とは、第一次世界大戦敗北後の1919年にドイツがつくったもので、第1条に国民主権を定めるなど、当時世界で最も民主的な憲法とされたものでした。

これに対し独裁をもくろんだヒトラーの「全権委任法」とは、ナチ党政府が、ワイマール憲法に拘束されず無制限で行動できることを認めさせた法律です。

為政者の権力濫用を拘束し国民の人権を保証する憲法を骨抜きにし、ナチスに逆らう者に「公益を害する者」というレッテルを貼り、人権を剥奪して弾圧するようなナチ立法を(憲法に反していても)有効とし、選挙を経ていないナチ行政府公務員に立法権まで与える法律案であった。
(ウィキペディアから)

なぜこんな法律が通ったかというと、第一次世界大戦の敗北、「世界大恐慌」による経済悪化などを受けた国家の混乱、国民の政治不信を背景に、「大ドイツ国の樹立」などを掲げたヒトラーナチスがドイツ民衆の心をとらえてしまったためです。

できた「全権委任法」は第1条から、法律をつくる権限である立法権を国会に代わってヒトラー内閣に与えています。

批判事例として挙げられた当のドイツは戦後、憲法改正「緊急事態条項」を導入

この第二次世界大戦時の痛い歴史を受けてドイツはどうしたか?社民党の福島氏の言うように一切の憲法改正を認めず、憲法を厳守したのか?護憲に徹したのか?

いえ、なんとドイツは戦後、59回も憲法改正をしているのです。

そしてその最たるものこそが1968年に改正した「緊急事態条項」だったのです。

ドイツの「緊急事態条項」は、共産圏との戦争など平常時では対応できない国家を脅かす緊急事態に際し、政府が、人権を制限するといった非常措置をとり、国家の秩序の回復を図ることが必要であると考え、導入されました。

例えば、他国との戦争となった場合に、ドイツ軍を出動させる。さらには国民の兵役にまで触れる、という徹底ぶりです(ドイツは2011年まで徴兵制があった、今は志願兵制)。当たり前のことですが、そうしなければ侵略を受け、国が滅んでしまうというリアルな考え方からです。

同時にきちんと人権保障も明示しています。

ドイツの「緊急事態条項」が示す人権保障面とは

・緊急事態が発生したと認めた後も、法律などをつくる権限・立法権は国権の最高機関である議会にある
・人権抑制を決めることのできるのも議会である
・議会活動が難しい時は代わりの組織(合同委員会という言い方をしている)をつくることができる
・(人権抑制に対する)異議がある場合には、憲法裁判所の判断を仰げる
・事態の監視も議会が行う
・事態、すなわち戦争を終了させるのも議会(あるいは合同委員会)である
(※災害対策に対する規定も別にある)

というものです。

非常事態に対する具体的な対処の仕方が、これでもか、というほどこと細かく示されているのです。

国民が常に憲法をチェックすることを忘れ、ナチスに権力をゆだねてしまったため、独裁を許し、あの戦争を起こしてしまった。その痛烈な反省から、国民が常に憲法をチェックすることを忘れない。国際情勢の変化を受けて「緊急事態条項」導入の必要性を認め憲法改正、導入する以上は人権制限・抑制への対応までも細かく規定しているのです。

以上的はずれという意味が、お分かりいただけたでしょうか?

批判を受けたナチスドイツ事例がまったく的はずれである意味とは、まずナチスを生んでしまった当のドイツが戦後、憲法を改正して「緊急事態条項」を導入しているということです。しかもナチスの痛い歴史の教訓を踏まえ、国民が常に憲法に関心を持ち続け、国際情勢の変化に機敏に対応してきちんと憲法改正をしているということなのです。

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「緊急事態条項」を導入しなければならない本当の意味とは?

それでは日本国憲法に「緊急事態条項」を導入しなければならない理由、本当の意味とは何なのでしょうか?その具体的中身に触れてみたいと思います。

2011年、日本に東日本大震災が発生しました。

この東日本大震災では、民主党の菅直人政権は失態を重ね、特に、災害対策基本法にある緊急事態の布告をしなかった、といわれます。

そのため医療品やガソリンなどの必需品が速やかに被害者に渡らなかった、助かる命も助からなかった、といまだに批判を受けているのです。

安倍首相が最優先に挙げている「緊急事態条項」の規定が今の日本国憲法にはありません。

しかし災害に関して、日本には憲法より下位の法律があります。

災害対策基本法
大規模地震対策特別措置法
原子力災害対策特別措置法
首都直下地震対策特別措置法
南海トラフ地震対策特別措置法

いかにもいかめしい言葉からなる災害対策の法律があるのです。

どれも災害時の対策・対応を細かく示しているものです。

このうち災害対策基本法では

「非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合」

には、災害対策として緊急事態を布告できることになっています。

先に記したように緊急事態宣言をすることで、物資の制限などを行うことができ、それによって被害者を救うことができるのです。

しかし、それは国民の権利などを一時、制限することでもあります。

大震災で民主党政権は緊急事態対応をせず助かる命が助からなかったとの批判あり!

東日本大震災で菅直人政権は「災害緊急事態」を布告(非常事態宣言を)しなかった。

国会での質疑応答で、その理由を「国民の権利義務を大きく規制する非常に強い措置であり、適切な判断が必要であった」から(宣言しなかった)としています。

要は憲法にないため、軽々には判断できなかった、というわけです。

しかし繰り返しになりますが、このため必要であった「物資の統制(制限)」を行えず、震災直後に、ガソリンが不足し、被災者や生活必需物資を輸送できず、助かる命も助からなかった、といわれています。

とんでもないことです。

特に今、日本には大きな自然災害が迫っている、といわれます。

国は、首都直下型地震の発生確率は30年以内70%、東海地震は同88%、東南海地震は同70%、南海地震は同60%としています。

まちがいなく押し寄せることを、考えておかなければなりません。

日本国憲法を改正し、「緊急事態条項」を導入しなければ、また東日本大震災の痛い経験を繰り返す可能性があるのです。東日本大震災では憲法に「緊急事態条項」がなかったため、緊急事態宣言ができず、そのため、助かる命も助からなかった。こうした悲劇を繰り返さないためにも大規模災害が確実に迫る日本に「緊急事態条項」の導入が必要ではないでしょうか。

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まとめ

安倍首相が最優先とする「緊急事態条項」の真の意味がおわかりいただけたでしょうか?

・「緊急事態条項」とは何か?

・批判を受けたナチスドイツ事例がまったく的はずれである理由とは?

・「緊急事態条項」を導入しなければならない本当の意味とは?

この問いに対する答えは

・「緊急事態条項」とは、国を脅かすような非常事態に対し、平常時の国民の権利などを一時的に制限、非常措置により秩序の回復を図るものです。

・批判を受けたナチスドイツ事例がまったく的はずれであるのは、ナチスを生んだ当のドイツが戦後、憲法を改正して「緊急事態条項」を導入しており、しかもナチスの痛い教訓を十分国民が認識しているということです。

・「緊急事態条項」を導入しなければならない本当の意味とは、東日本大震災で憲法に「緊急事態条項」がなかったため助かる命も助からなかった、という痛い経験、悲劇があり、大災害が確実に迫る中、震災の教訓を踏まえて憲法改正による「緊急事態条項」が必要だということです。

以上のことが、護憲派の批判が全くの的はずれであり、「緊急事態条項」が必要である理由なのです。
こうした実態・内容も、憲法改正と言ったとたん、すべてを批判する護憲派の妨害(?)もあり、正確に伝わっていないのです。

的はずれな批判などに惑わされず、国民によるしっかりとした議論が必要ではないでしょうか。

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